「解離」という言葉は精神医学や心理学で広く使われていますが、その中でも一部の人が「内在性解離」という言葉を持ち出して説明することがあります。特に、解離性同一性障害(いわゆる多重人格)の人の中には、人格交代の記憶があるのは内在性解離だからだと主張する場合があります。
では、この「内在性解離」とは本当は何を意味するのでしょうか。
解離の基本
「解離」は、心的な働きがまとまりを失い、本来ひとつにつながっているはずの意識や記憶、感覚、自己感が分離する現象を指します。
代表的なのは以下のようなものです:
• 現実感の喪失
• 自分が自分でない感覚
• 記憶の抜け落ち(解離性健忘)
• 身体感覚がないように感じる体験
これらは誰でも一時的に経験しうるものですが、慢性的かつ重度になると「解離性障害」と診断されることがあります。
内在性解離という用語
「内在性解離」というのは、正式な診断名でも、国際的に定義された医学用語でもありません。
主にトラウマ研究や一部の臨床心理学の文献で、「外在性」解離と区別するための概念的な説明に使われるだけの言葉です。
• 外在性解離:強いストレスやトラウマ体験に直面したときに一時的に生じる解離。外部刺激によって引き起こされる。
• 内在性解離:外部刺激がなくても、内部の心的要因(感情の高まりや内部葛藤など)によって自発的に生じる解離。
つまり、「内在性解離」とは 「自分の内側から勝手に起こる解離」 くらいの意味でしかありません。
人格交代と内在性解離
解離性同一性障害(DID)における人格交代は、しばしば「解離性健忘」を伴うと説明されます。つまり、ある人格が前面に出ている間、別の人格にはその時間の記憶が残っていない、ということです。
ところが実際には、「人格が交代した」と主張しながら、その出来事を鮮明に記憶している人も多いです。そのときに使われるのが「これは内在性解離だから」という理屈です。
しかしこれは本来の意味とは異なります。
「内在性解離」という用語は 健忘の有無を説明するためのものではなく、発生のきっかけ(外からか、内からか)を区別するだけの概念だからです。
本当のところ
まとめると、次のようになります:
• 内在性解離は、医学的な確立用語ではない。
• 本来は「解離が外部刺激で起こるか、内部要因で起こるか」を説明する概念にすぎない。
• 内在性解離をDIDの人格交代の「覚えている/覚えていない」と結びつけるのは誤用。
• 人格交代の記憶があるからといって「内在性解離」という説明は成り立たない。
したがって、ネットや一部コミュニティで語られる「内在性解離」の説明は、心理学的にはかなり歪んで伝わっているものといえます。
さいごに
「解離」という現象自体が一般には分かりにくく、そこに「内在性解離」というあいまいな言葉が持ち込まれることで、余計に誤解が広まっています。多重人格をめぐる議論では、「言葉の使われ方が医学的な正確さよりも、本人の語りの都合に合わせられている」ことが多いのが実情です。
もし「内在性解離」という言葉を見かけたら、それが本当に学術的な意味で使われているのか、それとも説明のための便利なラベルとして使われているのかを、冷静に見極める必要があります。

